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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)1342号 判決 1981年8月24日

本店所在地

東京都足立区入谷町一、七〇三番地一

渡辺硝子加工株式会社

(右代表者代表取締役渡邉作次)

本籍

東京都足立区江北二丁目二八五番地の三

住居

同都同区入谷町一、七〇三番地

会社役員

渡邉作次

昭和一二年七月一〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官上田廣一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人渡辺硝子加工株式会社を罰金一、〇〇〇万円に、被告人渡邉作次を懲役八月にそれぞれ処する。

被告人渡邉作次に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人渡辺硝子加工株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都足立区入谷町一、七〇三番地一(昭和五二年一二月一七日以前は同都同区加賀一丁目五番一八号)に本店を置き、板硝子の研磨加工及び板硝子の販売を目的とする資本金六〇〇万円(昭和五五年六月二四日以前は三〇〇万円)の株式会社であり、被告人渡邉作次は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人渡邉は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部除外、架空仕入の計上などの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三〇、六三二、〇二二円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五三年五月三一日、東京都足立区栗原三丁目一〇番一六号所在の所轄西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八、三二六、一八三円でこれに対する法人税額が二、四九〇、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第一〇四二号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一一、四一二、六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額八、九二二、四〇〇円を免れ

第二  昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が五九、九六八、四五八円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年五月三一日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二七、六三〇、六八九円でこれに対する法人税額が九、九三三、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二二、八五二、八〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一二、九一八、九〇〇円を免れ

第三  昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四〇、九三八、七七四円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年六月二日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三、三九六、六一八円でこれに対する法人税額が四、二七六、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を郵便により提出(通信日付は昭和五五年五月三一日)し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一五、二五〇、九〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一〇、九七四、九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人渡邉作次の当公判廷における供述

一  被告人渡邉作次の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の売上、江口硝子店売上除外、藤吉勇(片岡ガラス)売上除外、小口売上除外、仕入、架空(水増)仕入、仮装仕入、研磨材仕入、架空研磨材仕入、仮装研磨材仕入、荷造包装費、交際接待費、減価償却費、修繕費、運搬費、地代家賃、受取預金利息、預金、受取有価証券利息、源泉所得税、事業税認定損、車両売却損、価格変動準備金繰入額、価格変動準備金戻入益に関する各調査書各一通

一  検察事務官作成の昭和五六年五月一八日付捜査報告書

一  西新井税務署長作成の昭和五六年三月二五日付証明書

一  東京法務局城北出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五六年押第一〇四二号の1ないし3)

(法令の適用)

被告人渡邉作次の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法律により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人渡邉作次の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一、〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、長年板ガラスの研磨加工等の業務に携ってきた被告人渡邉が、その経営する被告会社において三事業年度にわたり合計約三、二〇〇万円余りの法人税を免れたという事案である。被告人渡邉は、犯行の動機として手形の不渡りなどの事態に備えて裏の資金を蓄積しようとした旨供述しているが、その資産状況や経営状態に照らすと、脱税までして蓄積を図るほどの必要があったとは認められず、逋脱の手段は広般かつ巧妙であって、本件の犯情は芳しくない。しかし、逋脱金額や逋脱率は判示の程度に止まっているほか、被告人は本件を反省して逋脱に関係した各種税額合計八、〇〇〇万円余をすべて納付し、二度と脱税しない旨約束していることなど諸般の事情を参酌勘案して、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小瀬保郎)

別紙(一) 修正損益計算書

渡辺硝子加工株式会社

自 昭和52年4月1日

至 昭和53年3月31日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

渡辺硝子加工株式会社

自 昭和53年4月1日

至 昭和54年3月31日

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

渡辺硝子加工株式会社

自 昭和54年4月1日

至 昭和55年3月31日

<省略>

別紙(四)

税額計算書

渡辺硝子加工株式会社

<省略>

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